クルト・ヴァランダー警部シリーズ by Henning Mankell
スウェーデン南端、スコーネの南東に位置する町、Ystad (イースタ)は中世の街並みが残る小さな港町。 観光客で賑わう町でもありますが、Ystad をもっとも有名にしているのは、この人、イースタ警察の警部ヴァランダー。
と言っても、実際の人物ではなく、小説の中の主人公。 スウェーデンはもとより、世界各国でベストセラーの推理小説、ヘニング・マンケル (Henning Mankell) による、クルト・ヴァランダー (Kurt Wallander) 警部シリーズは、日本語訳も何冊も刊行されています。
ヴァランダーは中年の中堅警部。 オペラ愛好家。 私生活ではだらしない面もありますが、仕事に向ける情熱は深く、昔気質のスウェーデン人。 でも最近、こんな片田舎で起こる凶悪事件に戸惑いも隠せません。
実際、これほどドラマチックではなくても、スウェーデンの犯罪率は上がる一方で、凶悪犯罪も増えています。 人々が持つスウェーデンの安全神話を、覆す作品かも。
首都や都市部のあくせくした雑踏の中ではなく、南部の田舎町だからこそ、浮き彫りにされる残虐性や、はっきり見えてくる問題、そして人間らしさがあります。
犯罪の舞台は、スウェーデンに止まらず、国境を越え、国際的な問題を含んでいる場合が多く、奥が深い。
落ち着いた語り、でもスリルに満ちた、そして深く重苦しい内容が多いですが、もちろんユーモアも忘れていません。 作者は、事件を追うことだけを目的とせず、その過程の状況説明から登場人物の心理描写まで、しっかり書いています。 だから、心を打たれる場面も多く、読み終わっても胸の奥に、何かが残る。 どれも読み応えのある作品です。 ヘニング・マンケルは作家としての経歴も長く、児童文学、戯曲、エイズ撲滅のための著書など数多く執筆していますが、刑事ヴァランダーは1997年にシリーズ1作目が登場して以来、毎年新作が発表され、そのたびに大ヒット。 TVドラマや映画も、数多く製作されています。 ロケ地はもちろん、Ystad。 ![]() 原作や映画での、ヴァランダーの足跡をたどるマップが、観光案内所に置いてありますよ。 |
爆殺魔(ザ・ボンバー) by リサ・マークルンド
ただいま日本に一時帰国中です。 早速、図書館に行ってきました。 借りた本は・・・ スウェーデン人女流作家による推理小説。
今まで、スウェーデン小説の日本語訳は、ほとんど見たことがなかったので、珍しく思い、また、この作家と作品は、私の知っているものだったので。 でも、日本語訳の文庫本で、約620ページあるものを、スウェーデン語で読めと言ったら、何年かかるか。 それが日本語だと、あっという間。
原作は、Sprangaren by Liza Marklund。 スウェーデン推理作家協会ポロニ賞受賞作品。 だから私が知っていたかというと、そうではなく、スウェーデン語の教科書に、一部抜粋が載っていたのです。 読解問題に、「女性が家事と仕事を両立することは大変なことでしょうか」「彼女の夫は、妻に協力的ですか」「彼女の男性の同僚は、彼女に理解がありますか」なんてあり、そのときは、移民向けのスウェーデン語の教科書に載っているくらいだから、偽善的な小説かと、眉唾に思ったのですが・・・ 読み始めたら、止まらなく、一気読み。 主人公の女性は、夕刊紙の記者。 昇進し、報道部デスクになったが、それがおもしろくない同僚や部下からの嫌がらせで、ストレスも溜まる一方。 国家公務員である夫も、仕事は忙しいが、幼い二人の子供たちの面倒は、夫婦二人で協力しながら見ている。 ストックホルムで行われるオリンピックの競技場で、爆発殺人事件が発生。 事件を調べるうち、彼女は、意外な背景を知り、自らも巻き込まれていく。 スウェーデンというと、色々な面で「クリーン」という印象があるかと思います。 また、先進的で、男女平等。 しかし、この小説の中にあるのは、どろどろした病的な現実。 根強い男尊女卑。 仕事と育児の間で、すれ違う夫婦。 野望のために子供を捨てる親。 でも、そんな現実の中で、模索しながら自分の人生を生きようとする、彼らは普通の人々。 児童書だけでは分からない、スウェーデンの現実社会を、この小説で知ることができるかと思います。 しかし、舞台がストックホルムのため、私には具体的なイメージが湧かない面も多く、「自分は重要人物」といった態度で、忙しく働きまわる登場人物たちは、南部で嫌われている、ストックホルム人の典型的な姿かな、と苦笑してしまいました。 |
















